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「最近、子供の様子が明らかにおかしい。もしかしてPTSDではないか」と心配されている親御さんへ。子供がつらい思いをしている姿を見て、「何かつらい経験をさせてしまったのではないか」「自分のせいかもしれない」とご自身を深く責めていませんか。
しかし、どうか知っておいてください。子供がPTSDになったのは、決して親のせいではありません。世の中には親の力だけでは予防できない現実もあります。今一番大切なのは、原因を探して自分を責めることではなく、「これからどう対応していくか」です。子供の変化に気づき、この記事にたどり着いた時点で、あなたはすでに親として十分に子供を守ろうとしています。この記事では、言葉でうまく伝えられない子供のPTSDのサインや、親御さんのプレッシャーを減らす「無理のない対応」、そして専門機関への頼り方について解説します。
参照:こころの情報サイト
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子供のPTSDとは|大人との違いを理解する
子供のPTSDが起こりやすい出来事
大人と同じように、子供も命の危険を感じるような強いショックや恐怖を体験すると、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症することがあります。子供のPTSDが起こりやすい出来事としては、以下のようなものが挙げられます。
- 事故や自然災害に巻き込まれる
- 身体的・性的暴力(虐待)などが原因になることがある
- いじめや学校での深刻な暴力を受ける
- 親や兄弟など、身近な人との突然の死別
- 家庭内での激しい争いを目撃する
ここで重要なのは、大人の目から見れば「時間が経てば忘れるだろう」と思えるような出来事であっても、子供の小さな心にとっては想像を絶する衝撃となることがあるという点です。出来事の客観的な深刻さよりも、「子供自身がどれだけ強い恐怖や無力感を感じたか」が、発症に深く関わっています。対応に迷うのも当然のことですから、焦らなくて大丈夫です。
大人と異なる子供特有の症状の現れ方
大人のPTSDの場合、つらい記憶が突然よみがえるフラッシュバックや不眠などを経験し、それを言葉で他者に伝えることができます。しかし、言葉の発達が十分でない子供は、自分の心の中で起きている混乱や恐怖をうまく言葉で説明することができません。そのため、子供のPTSDは「行動」や「身体の不調」として現れやすいという特徴があります。
具体的には、以下のような症状が現れることがあります。
- 退行現象: おねしょが再発する、指しゃぶりをするようになるなど、年齢よりも発達が後退したように見える行動をとります。
- トラウマを繰り返す遊び: ごっこ遊びの中で、自分が体験した怖い出来事を何度も繰り返し再現しようとすることがあります。
- 身体症状: 病院で検査を受けても異常がないのに、「お腹が痛い」「頭が痛い」といった不調を頻繁に訴えます。
- 学校生活への影響: 学校に行くことを激しく嫌がるようになったり、成績が急激に低下したりすることがあります。
- 睡眠障害: 夜中に突然泣き叫ぶ(夜驚症)、怖い悪夢を見て飛び起きるなど、安心して眠ることができなくなります。
- 感情の爆発・急な攻撃性: ちょっとしたことで激しいかんしゃくを起こしたり、突然怒りを爆発させて周囲に暴力を振るったりすることがあります。
これらの行動を大人が見ると、「最近わがままになった」「ただ甘えているだけだ」「ただの反抗期だ」と誤解してしまうことが少なくありません。親として普通のしつけや叱り方で対応してしまいがちですが、その行動の裏にPTSDの症状が隠れている可能性があることを、頭の片隅に置いておいてください。これらは決して「怠け」や「わがまま」ではなく、PTSDの症状としてよくある反応なのです。
子供のPTSDに気づくためのサイン
日常生活の中で注意したい変化
子供が日常生活のなかで見せる変化が、実はトラウマ反応のサインであることがあります。以下のような変化が続いていないか、日々の様子を注意深く見守ってみてください。
- 以前は大好きだった活動や遊びに対して、まったく興味を示さなくなった
- 過去の出来事を思い出させるような特定の場所、人、話題を極端に怖がり、強く避けようとするようになった
- 些細な物音や刺激に対して、驚くほど激しくパニックになる
- 名前を呼んでも反応が薄く、ぼーっとして心があらゆるところに飛んでいるような状態が増えた(トラウマの苦痛から心を守るための「解離」という症状の可能性があります)
また、もっとも注意していただきたい深刻なサインがあります。それは、子供の口から「死にたい」「消えてしまいたい」といった言葉が出た場合です。子供がこのような言葉を発したときは、心が本当の限界を迎えている証拠です。 親としては激しく動揺してしまうかもしれませんが、慌ててしまうご自身を決して責めないでください。まずは慌てず、否定せずに「つらい気持ちを話してくれてありがとう」とそのまま受け止めてあげましょう。その上で、親だけで抱え込まず、速やかに専門家や医療機関に相談してください。
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年齢によって異なるサインの出方
子供のPTSDのサインは、年齢や発達段階によっても現れ方が異なります。ただし、これらはあくまで目安であり、子供の性格や家庭背景によって現れ方は本当に個人差が大きいです。どれが起きても「親の育て方の失敗」ではなく「心を守るためのSOS反応」として捉えてください。
- 幼児期(〜6歳頃):親から離れることを極端に怖がる「分離不安」や、おねしょなどの「退行現象」が多く見られます。また、トラウマとなった出来事を遊びの中で何度も繰り返す行動が顕著に現れます。
- 学童期(7〜12歳頃): 学校での生活に影響が出やすくなります。授業中の集中力が著しく低下したり、学校そのものを回避しようとしたりすることがあります。また、言葉で不安を伝えられない代わりに「お腹が痛い」「頭が痛い」といった身体症状を訴えることが増えるのもこの時期の特徴です。
- 思春期(13歳〜): 成人のPTSDの症状に近づいてきます。感情のコントロールが難しくなり、イライラを周囲にぶつけたり、反抗的な態度をとったりすることがあります。また、つらさから逃れるために自傷行為に及んでしまうリスクも上がる時期です。
親にできること・避けたいこと
子供の安心感を守るために親ができること
子供がトラウマを乗り越えるために最も必要としているのは、「ここは安全だ」「自分は守られている」という感覚を取り戻すことです。親御さんは、完璧な対応を目指さなくても大丈夫です。「安全・安心のメッセージをしつこいくらいに繰り返す」だけで十分なサポートになります。
- 安心感を繰り返し伝える: 「あなたは安全だよ」「ずっとそばにいるよ」という言葉をかけ、安全であることを何度も伝えてあげてください。
- 否定せずに受け止める: どう言葉にしていいかわからない時は、ただ黙って寄り添う、見守るだけでも立派なサポートです。
- 日常のルーティンを維持する: 食事、睡眠、登校など、毎日の決まった生活リズムをできる範囲で維持することが、子供に「いつもと変わらない日常がある」という安心感を与えます。
- 無理に話させようとしないこと: トラウマ体験について無理に聞き出そうとするのは避けてください。子供のペースを尊重し、話す準備ができるまで待つことが大切です。
子供の反応には波があり、親がそれに振り回されて疲れてしまうのは当然のことです。ベストな対応ができなくても、その時の精一杯で接していれば、愛情は必ず伝わります。
親が避けたい言動
子供を励まそうとしてかけた言葉が、かえって子供を追い詰めてしまうことがあります。
- 「もう終わったことだよ」「忘れなさい」「頑張れ」: 大人からすると前を向いてほしいという願いからの言葉ですが、記憶を無理に消そうとしたり励ましたりする言葉は、子供にとって「自分の恐怖を分かってもらえない」という孤独感につながります。
- 「なぜそんなことになったの」: 原因を追及するような質問は、子供に「自分が悪かったからだ」という強い罪悪感を植え付け、自分自身を責める原因になってしまいます。
- 「大げさだよ」「気にしすぎ」: 子供が必死に発している恐怖や悲しみの感情を否定することになります。感情を否定された子供は心を閉ざしてしまいます。
もし、この記事を読む前に気づかず言ってしまっていたとしても、激しく落ち込む必要はありません。「さっきは分かってあげられなくてごめんね、一緒に休もうね」と謝れば、何度でもやり直すことができます。失敗を許容し、トライ&エラーで進んでいけばよいのです。
子供のPTSDの治療と専門家への相談
子供のPTSDに有効な治療アプローチ
子供のPTSDの治療には、専門的なアプローチが存在します。家庭だけで抱え込まず、専門家に頼ることを遠慮しなくて大丈夫です。
治療アプローチの選択肢の一つとして、「トラウマに焦点を当てた認知行動療法(TF-CBT)」があります。これは、トラウマ体験に対する捉え方を少しずつ整理し、安心感を取り戻していくための心理療法として有効とされています。 また、言葉で感情を表現することが難しい幼い子供には、遊びを通じた治療である「プレイセラピー(遊戯療法)」が用いられることがあります。 なお、薬物療法については、子供の場合は身体への影響を考慮し、非常に慎重に検討されることが一般的です。
どこに相談すればいいか
「もしかして子供がPTSDかもしれない」と悩んだときは、以下のような専門機関や窓口を頼ってみてください。どこからスタートしても構いません。
- 小児科、児童精神科などの医療機関
- 学校のスクールカウンセラー
- お住まいの地域の児童相談所
- 各自治体にある精神保健福祉センター
どこに相談すればよいか迷う場合は、まずは通い慣れた小児科の先生や、学校の先生に相談してみるのも一つの方法です。困った時、迷った時は、何度でも相談しなおしてOKです。相談のハードルはとことん下げて、使える支援はすべて使いましょう。
親自身のケアも忘れずに
子供がPTSDで苦しんでいる姿を一番近くで見守り、支え続ける親御さん自身も、想像以上に精神的・体力的に疲弊してしまうことがあります。「私がもっとしっかりしなければ」「休んでいる場合ではない」と自分を追い込んでしまうかもしれません。
しかし、親御さんが倒れてしまっては、大切な子供を支えることができなくなってしまいます。子供を守ることは、まず自分を守ることから始まります。親自身のメンタルを同時に支援してもらうのは当たり前の権利であり、一人で抱え込まず誰かに頼ることは「親失格」ではなく「親として当然」の行動です。
精神科訪問看護ステーション ラララは成人向けの精神科訪問看護ステーションですが、在宅療養を支えるご家族の精神的なご相談にも対応しています。親御さんの抱える不安や疲れについて、一人で抱え込まずに少しでも軽くするお手伝いができればと考えております。
悩みも失敗も何度でもやり直して大丈夫です。どんな時も、あなたは親として十分役割を果たしています。まずは相談だけでも構いません。こちらから、お気軽にご連絡ください。