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「なぜ自分がPTSDになってしまったのかわからない」「こんなことくらいでPTSDになるなんて、自分が情けない」とご自身を深く責めてしまっていませんか。「同じ体験をしたあの人は普通にしているのに、なぜ自分だけがこんなに苦しいのだろう」と孤独を感じることもあるかもしれません。
しかし、どうかこれ以上ご自身を責めないでください。「なぜ自分だけ」「これくらいで」と悩むのはごく自然な気持ちであり、あなたの弱さではありません。PTSDになったのは、本人の意志の弱さや心の問題によるものでは決してないのです。この記事にたどり着き、ご自身の苦しみと向き合おうとしているだけで、あなたはすでに十分すぎるほど頑張っています。
この記事では、PTSDの原因となる出来事や発症のメカニズム、および「原因がわからない」と混乱しているときの考え方についてわかりやすく解説します。自分のせいではないと知り、今からできることだけに目を向けていきましょう。
参照:こころの情報サイト
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PTSDの原因となりやすい出来事
PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、強い恐怖や無力感を伴う出来事を経験した後に、心身にさまざまな不調が現れる疾患です。では、具体的にどのような体験が原因となりやすいのでしょうか。大きく分けて「生命の危機に関わる体験」と「人間関係・日常生活の中で起こる体験」があります。
生命の危機に関わる体験
PTSDの原因として一般的に広く知られているのは、ご自身の命や身体の安全が脅かされるような、圧倒的な恐怖を伴う出来事です。代表的なものとして、以下のような体験が挙げられます。
- 戦争や紛争などの危険な状況への巻き込まれ
- 地震、洪水、台風、津波などの予期せぬ自然災害
- 突然の交通事故や、職場などでの深刻な労働災害
- 暴行や強盗といった犯罪被害
- 性的暴力などの深く傷つく体験
これらの出来事は、ある日突然日常を奪い去り、心身に計り知れない衝撃を与えます。このような生死に関わる体験や、極めて深刻な恐怖を伴う出来事がトラウマ(心的外傷)となり、その後にPTSDを発症する原因になりやすいとされています。
人間関係・日常生活の中で起こる体験
一方で、ニュースで報道されるような大事件や災害でなくても、PTSDの原因になる体験は日常の中に潜んでいます。以下のような人間関係や日常生活における出来事も、心に深い傷を残すことがあります。
- 職場での深刻なパワハラやハラスメント
- 家庭内暴力(DV)
- 身体的・精神的な虐待などが原因になることがある
- 学校やコミュニティでのいじめ
- 親しい家族や友人など、身近な人の突然の死や予期せぬ別れ
これらの体験は、「災害や事故に比べれば大きな事件ではないから」「これくらいで傷つくのは自分が甘えているからだ」と、当事者ご自身や周囲の人によって軽視されてしまうことが少なくありません。しかし、客観的な出来事の規模の大小は発症には関係ありません。ご本人がその体験の中で「逃げ場がない」「自分ではどうすることもできない」という強い恐怖や無力感を深く感じたのであれば、それはPTSDを発症する十分な原因になりうるのです。「自分が弱い」「他人より脆いからだ」とご自身を責める必要は一切ありません。
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なぜ同じ体験でも発症する人としない人がいるのか
「同じ事故に遭ったのに、同僚は平気そうにしている。なぜ自分だけがPTSDになってしまったのだろう」と思い悩み、罪悪感を抱える方は多くいらっしゃいます。しかし、発症の有無は個人の優劣や努力不足によるものではありません。
発症に関わる要因
同じ出来事を経験しても、人によってその後の反応が異なるのは、さまざまな要因が複雑に絡み合っているためです。PTSDの発症に関わる可能性がある要因として、以下のようなものが考えられています。
- 体験の強度と継続期間: その出来事がどれほど恐ろしいものだったか、また、それが一度きりだったのか、長期間にわたって繰り返されたものか。
- 体験時のサポートの有無: つらい体験をしたその時、周囲に助けてくれる人がいたか、あるいは誰にも頼れず完全に孤立していたかどうか。
- 過去のトラウマ体験の積み重ね: 過去にも別のつらい出来事を経験しており、心にダメージが蓄積されていたかどうか。
- 体験後の環境: 出来事のあと、安心して過ごせる安全な場所に戻れたか、それとも不安な環境が長く続いたかどうか。
これらはあくまで「関わる可能性がある」要因であり、「これに当てはまるから必ずPTSDになる」というものではありません。人の心と体を取り巻く状況は千差万別であるため、発症に至る経緯も人それぞれ異なるのが当たり前なのです。
「自分が弱いから」ではない
ここで最もお伝えしたいのは、PTSDになったのは決して「ご自身が弱いから」でも「性格の問題」でもないということです。
PTSDの症状は、想像を絶する恐怖や強いストレスに直面した際、傷ついた心と体をさらなる危険から守ろうとして、誰もが持つ「脳の安全装置」が過剰に働いた結果として起こる自然な反応です。脳が必死にあなたを守ろうとしているのであり、心の弱さでも責任でも一切ありません。
同じ出来事を体験しても発症しない人がいるのは、その人が「精神的に強いから」ではなく、その時の体調、過去の経験、周囲の環境など、あらゆる文脈があなたとは異なっていたからに過ぎません。「自分だけがPTSDになってしまった」「弱い自分はダメだ」とご自身を責め、自己否定に陥る必要はまったくないのです。
原因がわからないと感じる理由
PTSDの症状で苦しんでいる方の中には、「なぜ自分がこんなに苦しいのかわからない」「はっきりとした原因が思い当たらない」と混乱し、さらに悩みを深めてしまう方がいらっしゃいます。
PTSDの原因が「わからない」ことがある理由
ご自身で原因がわからないと感じるのには、いくつかの理由があります。
第一に「記憶の抑圧」です。心に受けたショックがあまりにも大きすぎた場合、人間の脳はこれ以上の苦痛から心を守るために、その出来事の記憶を無意識のうちに封じ込めたり、記憶を断片的にしたりすることがあります。そのため、何が原因だったのかをはっきりと引き出せない状態になるのです。
第二に「複数の体験の積み重ね」です。何か一つ、決定的な大事件があったわけではなく、長期間にわたる継続的なストレスや、日常的な小さなトラウマの蓄積が限界を超え、ある日症状として現れることがあります。この場合、決定的な原因を一つに絞ることが難しくなります。
第三に「自己否定による過小評価」です。「世の中にはもっとつらい思いをしている人がいるのだから、自分の体験なんて大したことではない」と思い込み、ご自身の中でその出来事を原因として認識できていないケースです。このように、原因がはっきりとわからないこと自体も、決して珍しいことではありません。
原因を無理に特定しなくていい
「原因がわからないから治らないのではないか」と不安になるかもしれませんが、原因がわからなくても治療やサポートを受けることはできます。
「原因がどうしても思い出せなくても、治療やサポートは受けられる」「むしろ原因の掘り起こしは焦らなくて良い」ということをぜひ知っておいてください。治療は過去の原因探しよりも、「今起きている眠れない、怖いといった症状をどう和らげていくか」という現在のアプローチから始めることができます。 むしろ、ご自身で無理に原因を掘り起こそうとすると、症状が急激に悪化してしまうリスクもあります。過去と向き合う作業は、安全な環境が整った上で、専門家と一緒に慎重に進めることが重要です。「原因不明でも、困っている自分は無条件で治療や支援を使っていい」という権利があることを忘れないでください。
原因となった体験から離れることの重要性
現在進行形でストレスや恐怖を感じる環境にいる場合、そこから離れることが回復への道筋となることがあります。ご自身の安全確保を最優先にすることは、とても大切で正しい行動です。
原因から距離を置くことが回復の第一歩になることがある
PTSDの症状を落ち着かせるためには、何よりも「安全・安心感」を取り戻すことが欠かせません。もし、職場の人間関係や現在の環境そのものがトラウマの引き金となっているのであれば、そこから物理的、あるいは心理的に距離を置くことが、回復の大きな助けになる場合があります。 危険を感じる場所から離れ、脳と神経系に「もう安全なのだ」と教えてあげる時間を確保することは、治療を進める上での大切な土台となります。
離れられない場合の対処
とはいえ、現実問題として「原因となっている場所から離れるのが難しい」という状況も多々あります。生活がかかっている職場であったり、簡単に離れることができない家庭環境であったりする場合、無理に離れようとすること自体が新たな強いストレスを生むこともあります。
離れることが難しいケースでも、決して一人で悩む必要はありません。外部の専門家に相談することで、「環境をどう調整すれば少しでも安全を確保できるか」「今できるサポートは何か」という現実的な解決策を一緒に考えていくことができます。 仕事が原因で悩んでいる方や休職を検討している方は、あわせて「PTSDで仕事ができないのはなぜ?」の記事もご覧ください。
PTSDの原因と向き合うために専門家を頼る
「なぜ自分がPTSDになったのか」という問いと向き合うことは、非常にエネルギーを要する作業です。専門家を頼ることは決して「弱さ」ではありません。何度でも相談してよいのです。
前述の通り、お一人で過去のつらい記憶を掘り下げようとすることは、フラッシュバックや強い不安を誘発するリスクが伴います。医療機関やカウンセラーなど、専門的な知識を持ったプロフェッショナルと一緒に進めることが何よりも大切です。「言葉がまとまらない」「うまく説明できない」と心配する必要はありません。あるがままの感情を伝えるだけで十分なのです。 どのような症状が現れるのか、診断や窓口については「PTSDの症状とは?」の記事でも解説していますので、参考にしてみてください。
また、症状が重く、外出してクリニックへ出向くことが難しい場合には、「精神科訪問看護」を利用することもできます。看護師などの専門スタッフがご自宅を訪問し、安心して過ごせる環境で、日々の不安に対する相談や体調の確認といったサポートを行います。「どんな悩みも恥ではない」という安心感の中でケアを受けることができます。
今あなたが苦しんでいることは、心と体が限界を超えたことへの自然な反応です。行動や支援の利用に正解や不正解はありません。まわり道をしたり、やり直したりしても大歓迎なのです。 精神科訪問看護ステーション ラララでは、PTSDをはじめとする精神疾患を抱え、日常生活に困難を感じている方々の在宅療養をサポートしています。
まずは相談だけでも構いません。こちらから、お気軽にご連絡ください。