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「自分が双極性障害になったのは、性格が弱いからなのだろうか」 「家庭環境や、母親の育て方が原因だったのではないか」 「子供が病気になったのは、私の育て方が悪かったせいではないか」
双極性障害の診断を受けた当事者の方やそのご家族は、このような深い自責の念や、過去に対するやり場のない思いに駆られることが多々あります。まずは、今日まで一人で悩み、原因を探し続けてきたご自身を「本当によく頑張った」と認めてあげてください。自責の念や親への苛立ちを感じることは、今の状況ではごく自然な反応です。
お伝えしたいのは、双極性障害の原因は複数の要因が複雑に絡み合って起こるものであり、決して誰か一人の責任ではないということです。この記事では、現時点の医学的知見に基づき、遺伝や環境、家族関係と病気の関わりについて丁寧に解説します。
原因への不安を整理し、誰も悪くないという地点から、回復に向けた一歩を共に探していきましょう。
双極性障害の原因は「ひとつ」ではない
双極性障害(躁うつ病)は、気分が高揚する「躁状態」と、激しく落ち込む「うつ状態」を繰り返す脳の疾患です。なぜこのようなことが起こるのか、そのメカニズムを正しく知ることは、重すぎる罪悪感を下ろす第一歩になります。
現時点でわかっていること:多因子モデル
双極性障害の直接的な原因は、現代医学でも完全には特定されていません。しかし、「何かひとつの悪い点」があるわけではなく、以下の複数の要素が組み合わさることで発症する「多因子的な疾患」であると考えられています。
- 生物学的要因: 脳内の神経伝達物質のバランスや、神経回路の働きの変化。
- 遺伝的要因: 生まれ持った「体質的」ななりやすさ。
- 環境的要因: 強いストレス、生活環境の変化、生活リズムの乱れ。
これらは、どこにも「責任」の所在がない複数の要因が重なり合った結果に過ぎません。特定の誰かが悪かったから発症したわけではないのです。
原因が特定しにくい理由
犯人探しが難しいのには理由があります。
- 要因の複合性: 遺伝的な背景があってもストレスがなければ発症しないこともあれば、逆のケースもあります。複数の要素が合わさって初めて発症するため、一つを特定することが困難です。
- 個人差の大きさ: 同じようなストレスを受けても、発症する人としない人がいます。これは、脳の特性やそれまでの経験など、個人が持つ条件が千差万別だからです。
- 研究の進行性: 脳科学やゲノム解析は現在も進行中であり、心と脳の仕組みは非常に奥深いものです。
現段階で言えるのは、双極性障害は「意志の弱さ」や「努力不足」ではなく、医学的なサポートが必要な脳の機能に関わる状態であるということです。
遺伝的要因について
「親の病気が遺伝したのではないか」「子供に遺伝させてしまうのではないか」という不安は、家族を思うからこその切実な悩みです。しかし、遺伝を「宿命」として捉える必要はありません。
遺伝との関係:宿命ではなく「体質」
双極性障害には遺伝的な要因が一定程度関わっている可能性があるとされています。血縁者に当事者がいる場合、統計的に発症率が高くなる傾向は報告されていますが、重要なのは「遺伝的要因がある=必ず発症する」ではないという点です。
- 体質としての遺伝: 遺伝するのは病気そのものではなく、「気分の波が生じやすい体質(脆弱性)」であると考えられます。
- 非発症の例: 遺伝的な素因を持っていても、生涯一度も発症せずに過ごす人はたくさんいます。
「コントロールできないこと」に責任はない
遺伝的な影響は、生まれる前に決まっている「設計図」の一部のようなものです。それは親も子供も自分の意志で選択したりコントロールしたりできることではありません。
したがって、遺伝的な要因を理由に「自分が悪い」「親が悪い」と責めることは、医学的にも論理的にも成り立たない「完全な非有責」の事柄です。むしろ、この「体質」をあらかじめ知っておくことは、早めに休息を取るなどの「セルフケア」に活かせる前向きな知識となり得ます。
環境的要因について
遺伝的な素因という「種」があったとしても、それを発芽させるのは環境という「土壌」やストレスという「水」の役割である場合があります。
ストレスや生活環境との関係
発症や再発には、外部からの強い刺激が引き金になる可能性があります。
- ライフイベント: 結婚、昇進、引越しなどの大きな変化は、喜ばしいことでも脳には強い刺激となります。
- 生活リズムの乱れ: 特に睡眠不足は、双極性障害の症状を誘発しやすい大きな要因です。
ただし、「ストレスだけ」で発症するわけではありません。もともとの体質に強い負荷が重なった結果であり、その負荷を避けきれなかった自分を責める必要はありません。
幼少期の体験との関係
幼少期の強い心理的ストレスが成長後の脳に影響を与える可能性については研究されていますが、これも「過去の体験が原因で必ず発症する」という単純な結論には至りません。
「恵まれた環境でも発症する」ケースがある一方で、「過酷な環境でも発症しない」ケースもあります。人生のどこかの時点でさまざまな要因が揃ってしまっただけであり、あなたの過去のすべてが病気に直結しているわけではないのです。
「母親が原因」という葛藤について
「双極性障害になったのは母親のせいではないか」「自分の育て方が悪かったのではないか」と苦しんでいる当事者・家族は少なくありません。
なぜ「母親が原因」と感じてしまうのか
- 当事者の心理: 辛い現状の理由を探すとき、最も身近な存在である親との関係が頭に浮かぶのは、人間として極めて自然な心の動きです。
- 親の心理: 我が子の苦しみを代わってあげられない無力感から、「私の育て方のせいだ」と自分を追い詰めてしまうのは、子供を思う愛情ゆえの切実な罪悪感です。
- 過去のイメージの影響: かつて「育て方が原因で精神疾患になる」という誤ったイメージが広まった時期があり、その影響が今も残っている場合があります。
特定の誰かのせいと言い切ることはできません
双極性障害は遺伝的要因、脳の機能、環境など複数の要因が絡み合って発症するものであり、特定の誰かひとりの責任に帰するものではありません。
親子関係に葛藤があったとしても、それと「疾患の発症」は別物です。親が完璧でなかったとしても、それが発症の全責任になることはありません。犯人探しを続けることは、当事者も家族も等しく消耗させてしまいます。「誰のせいでもない」という地点に立ち、過去の責任追及から「今の暮らしをどう守るか」へと視点を移していくことが、共倒れを防ぐ道となります。
原因を追うより「今できること」に目を向ける
原因を知りたいという欲求は、状況を良くしたいという願いの表れです。しかし、原因探しのループが苦しみを生んでいるなら、一度そこから離れてみましょう。
原因がわからなくてもサポートを受けていい
「原因がはっきりしないから、まだ自分を甘やかしてはいけない」と思う必要はありません。原因がすべて解明されなくても、今の苦しみを和らげる治療や支援を受ける権利があなたにはあります。
「誰も悪くない。でも今は苦しい。だから助けが必要だ」 それだけで、サポートを利用する十分な理由になります。
専門家と一緒に向き合う
原因への疑問や不安は、一人で抱え込まず、主治医や専門家に「何度でも」相談してください。医療機関を変えたり、複数の意見を聞くことも「逃げ」ではなく、自分に合う道を探すための正当な行動です。
病気の影響で生活リズムが崩れたり、外出が困難な時期には、精神科訪問看護という選択肢もあります。看護師が自宅を訪問し、服薬管理のアドバイスや「誰にも言えない不安」への相談に応じます。自宅という安心できる環境で、何度失敗してもやり直せるサポートを受けることで、回復への土台を整えることができます。
もし、お仕事との両立や復帰について悩まれている方は、こちらの「双極性障害 仕事」の記事もぜひ参考にしてください。
精神科訪問看護ステーション ラララでは、双極性障害の当事者の方、そして支えるご家族が抱える「やり場のない思い」に寄り添います。
誰のせいでもありません。ここまで読んだあなたも、ご家族も、みんな本当によく頑張ってきました。まずは相談だけでも構いません。こちらからお気軽にご連絡ください。
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参照:こころの情報サイト